魚屋でギターを売っちゃ悪いのかよ
帆場蔵人
近所の魚屋にギターが売られていて
魚屋のじい様、年季の入った海軍御用達の
看板を磨いてぴかぴかにして笑っている
こいつはまた活きのいいギターじゃないか
そういうとじい様は息子が若い頃に弾いてたからといいながら
最近では顔もだしよらん、と腹ただしげに杖をカンカンと鳴らす
ちょいと失礼、ギターを借りて一曲弾けば
じい様、お前さん、うちの息子より上手い
もんだと感心している、まぁ、そうだなぁ
二十年前よりは上手くなったもんだよ
なぁ、親父、今日は漁連に仕入れに
いかねぇのかい、鰆がくいてぇなぁ
話してるうちに私が誰か親父のなかの
歯車が噛み合って、馬鹿やろう、魚屋の
店先でギターなんか弾きやがって、と
怒りながら店を閉めてしまった
買い置きしてた鰯を置いておくと
親父は手早く捌いて煮付けを作っている
上手いよなぁ、母さんより、上手いよ
また翌日の早朝には店を開けて
ギターや骨董品が店先に並ぶ
日曜日には私も店先を掃除している
まだ幼かった日のように親父の罵声を
聴きながら、魚屋を開いている