母の死体は美しい
印あかり
母は美しい
だから母の死体はきっと美しい
閉ざされた瞼にわたしは
小さなダイアモンドを飾りたい
「石なのに、この世で一番綺麗」
耳にツンとくる冷たい声が蘇る……
母の死因はきっと病気だろう
肺が弱くて、よく血を吐いていた
そのときばかりは
誰も母に怒鳴り返すことができなかった
暗がりに横たわる小さな背中
母は美しい
だから母の死体はきっと美しい
わたしを殴った手
わたしを蹴った踵
わたしを怒鳴った喉
死んだらすべてが美しくなってしまう
母はずるい
わたしは母の遺影を前にしても
きっと笑わない、涙も流さない
それでも思いだす
ごろごろとした記憶の中から
ちらちらと光る小さな記憶を
母の笑顔を
母の涙を