母の死体は美しい
印あかり

母は美しい
だから母の死体はきっと美しい

閉ざされた瞼にわたしは
小さなダイアモンドを飾りたい
「石なのに、この世で一番綺麗」
耳にツンとくる冷たい声が蘇る……

母の死因はきっと病気だろう
肺が弱くて、よく血を吐いていた
そのときばかりは
誰も母に怒鳴り返すことができなかった
暗がりに横たわる小さな背中

母は美しい

だから母の死体はきっと美しい

わたしを殴った手
わたしを蹴った踵
わたしを怒鳴った喉

死んだらすべてが美しくなってしまう
母はずるい

わたしは母の遺影を前にしても
きっと笑わない、涙も流さない

それでも思いだす
ごろごろとした記憶の中から
ちらちらと光る小さな記憶を

母の笑顔を
母の涙を



自由詩 母の死体は美しい Copyright 印あかり 2019-05-19 16:31:00
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