センテンスレス アポカリプス
竜門勇気


真夏に会えなかった人々
覚えてるかい
ここは本屋で
ほらそこは食堂だった
これは覚えてるかな
そこの角。大きな道が見えるだろ
あれを右に曲がってすぐに
小さな脇道があるんだ
表札がない家と昔化粧品店だっただろう跡のあるドアのあいだに
昔会えなかった人々

君は誰も愛さなかったと僕に伝える
それを裏付けるように
彼らに会えない

匂いでなんか思い出すことってあるよな

あるね

それが心地よかったことがあるかい

ないね

それから僕らは友達
君があれは愛だったかもと伝える
その言葉を匂うこともない味覚だと思う
それが証明書さ
僕らは友達であってそれ以外ではない

匂いではないことでなにか思い出すことあるかい
証明書は時々更新される

なにか思うことがあるかい

ないね

証明書は新しくなる

熊に出会ったことは?
ミミズを恋人にしたことは?
寝言で誰かを泣かせたことは?
あれは愛だったと思うことは?

とにかく無いね
君が思ったことは何一つ
僕にとってはそうじゃないみたいだ

水路に涙を集めて流したことは?
ここにいちゃいけないって思ったことは?
血が止まらなくて不安になったことは?
あれを愛だって思っていたいって感じたことは?

残念だけど
ちょっとまって
いや、ないね
君はどうやら僕じゃないみたいだ

ジャガーが一匹
僕らの前で背伸びをする
爪を探してるんだ
僕らのどっちかがそれを持ってる
渡さなきゃ殺されちまうよ
どうする?

わからない
いや、まって
ああ
ある 持ってるよ
僕の持ち物だ、それは

瞳の中に僕が映ってる
僕はきっと君の爪
さしだすだろう、と言った
瞳の中の僕は爪ではなくなった
不思議に思って覗き込む
意味のある答えじゃなさそうだ
この無意味はとても心地が良いよ


自由詩 センテンスレス アポカリプス Copyright 竜門勇気 2019-05-18 12:26:27
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