或るラーメン屋
ふじりゅう

おしくらまんじゅうのような場所に
ひっそり建てられたラーメン屋。
誰も 寄り付きそうもない 汚い看板に
なぜか故郷を感じさせられた。

何匹ゴキブリが這っているのか
とんと見当もつかぬ。
清掃員だった経験も録に機能しない。
ドアを閉めたら席へ案内され、
その瞬間外の夕焼けから遠ざかる。
現実から明後日の方向へ
顔を背けた人民が
まるで急いでいるかのように、
麺をすすっている。

私はなぜか味噌ラーメンではなく
とんこつラーメンを頼んだ。
はいよォ〜 なんていう掛け声とともに
店内が急に忙しくなる瞬間が嫌い
だからセッターをぬるりと取り出し
ライターで火を付けて
自分へ閉じこもってしまう。

煙なのか湯気なのか
見分けがつかぬほど霧がかった視線は
あえてLINEでも、Twitterでも
Facebookでもなく、
やけに狭いラーメン屋の壁に貼られたビラへ。
どうやら「吹奏楽フェスティバル!」と
書かれてあるようで、
日付は…3年前か。
学生か教員が(わざわざこの店に)
頼みに来たのだろう。
バケモノみたいにイカつい親父だが、
こうして貼り続けているところに、
この店が何十年も続いている訳を知る。

吸い終わった丁度くらいに来たとんこつラーメンは、
大して不味くも美味くもない。

だけど、たぶんまた来るだろう。
貼られていた吹奏楽のビラが、
3年前、2年前、1年前、
そして今年と、続いていたのだから。
一服。うまい。背中へ
ありがとやしたァ〜
なんていう掛け声。
ドアを開けるといつの間にか夜の商店街
また社会の激流へ 飲まれて行ける。


自由詩 或るラーメン屋 Copyright ふじりゅう 2019-05-17 11:03:28
notebook Home 戻る