系図
ぽりせつ
たったひとつ足りないばかりに
水になれない命がこの世にはあるのだから
たったひとつの決まりごとのために
美になれない命があっても おかしくはない
(だからこそーー )
ふと眺めた死 祖先たちの積み重なった空に
おとなたちはあやうく墜ちてゆきそうになったり
こどもたちは
「あんそろじあ!」と云いながら 未聞の解剖学によって
せかいのひみつを毟ったりしてきたのだ
(その柔かなゆびで うすい羽をやぶるほどの
容易い決まりごとと信じて )
ときに稲妻によって
ときにつつじの枝によって
そしてときに 枯渇した大地のひびによって
人がことばを発明するはるか昔から
美は論述されてきた
やがて わたしたちが絶えたあと
限りなく人のかたちをしたマシーンたちが
心について語りはじめるだろう
絵にもするだろう
価値や 学術や 神話にもするだろう
それでも 七十億の鉄骨のすきまに
一滴の水も 流れはしないのだ
七十億の肋骨のすきまに
ついに美の一風が吹かなかったように・・・
青空は だれも墜ちてこなくなった下界の深みに
それでも静かに 在りつづけるだろうかーー