ある夜のともし火
帆場蔵人
灯台の灯りで煙草に火をつける
まるで灯台がチリチリと燃えるよう
灯台を吸い尽くしたら
波濤を彷徨う船たちも
みな底に攫われた悲しみも
どうやって帰ってくるのか
煙草の火をグルグルとまわして
沖に向かって叫び続ける
おぉぉぃ、
はやく、はやく、帰ってこぉい
あぁ、もう火が消える
やがて沖へ沖へと
朝が夜をひいてゆく
***
あまりにたくさんの人が悲しみで
海を埋め立ててきたのです
水平線があんなに滲むのは
埋めた物が流れ出したから
海風が吹き荒れて湿っているのも
サイレンが、海鳴りが止めどなく
痛ましく不安を駆り立てるのも
そのせいですが私には解りません
やがて津波で悲しみは
帰ってくるでしょうから
私は高台にいき眺めます
あそこの防波堤の突端でまわる
小さな灯り、誰かの悲しみに
呼びかけているのでしょうか
あゝ、もう火がきえた