陽灼け
ぽりせつ
かべの絵葉書はもう永いこと陽に灼かれている
白い空に
白い海をまたぎ
白い太陽が 浮かんでいる
(しずかすぎる痛みは いつも
もっとも深い傷となってあらわれたーー )
わたしが生傷と親しかった頃
世界は体力の届くところまで在ればよかった
空白の雑記帳が 反逆的な誇りだった
そのくせ
箔押しの名入り鉛筆がうれしかった
まぶしさの中にいて 眩まずにいた頃
哀しいことなど何も知らず「泣く」ことは
使いそびれた壮気を 清算 することだった
明日は明日生きれば事足りた
『疑うことは何もない』
身勝手な自戒を 許してほしい
疑うことが すでに
信じることのはじまりなのだから
疑うことは やめにした
〈たいようまで の キョリは なんキロメートルだろう?〉
雑記帳の裏表紙が こともなげに問うている
ーーわたしはそれに 未だ答えられないままでいるーーー
新しい時代が終わろうとしている
爽やかな身体で入る 昼下がりの浴室は
かすかに 不孝者のぬくみがした
(銀座シネパトスでみた
海の花火という映画
名画座と風待港は どこか似ている気がする・・・ )
一枚残った絵葉書の
あの陽に灼けた沈黙が
日没だったのか 夜明けだったのか
わたしにはもう
わからない
深い傷を 探している