ゆきてはかえり
帆場蔵人
さよなら、が瞬いては消えて
こころに小々波もおきない
からだの輪郭はどこかに消えて
狭い部屋でちいさな湖になって
水源へ染み入ってゆく
くらいくらいばしょ
ひかりしかないばしょ
ただいまもさよならも
めぐっていく、すべてあらいながされて
わたしは杉林をうつ雨、水車を廻す流れ
山から湧きあがるしみず、頰をつたう流れ
そしていつかの水路で近寄っては離れる
さくらの花びらもやがて色をうしない
別たれていく、わかっていながら
手を伸ばしてはさよならが瞬く
わたしはちいさな湖になり
水源へと染み入っていく
くらいくらいばしょ
ひかりしかないばしょ
わたしはわたしに還って
はじめましてただいまさよなら
今年もちゃんと桜が散っているよ
狭い部屋でひとり、ポットのなか
水は沸き立ちながら鳴いている