唯一の友だち
帆場蔵人
忘れ去られ、蔦が這い
色褪せくすみ、ねむったまま
死んでいく、そんな佇まい
そんな救いのような光景を
横目に朝夕を、行き帰る
遠くのタバコ屋の廃屋まえ
どんどんとカメラが引いて行き
エンドロールが遠く聴こえる
そんな空間にいたはずの
そんな物が国道沿線沿いに
移され、あまりにも綺麗に彩色されて
泣いていた
声を押し殺し
口を真一文字に引き結び
静かに泣いている
ポストが
夕陽に濡れて赤々と
泣いている、葉書の一枚も
一通の手紙も与えられず
無用の長物と化した姿を晒されて
一層、赤く、流れない涙に滲んで
***
初めて泣いたのは
いつだったろう?
多分、産まれたときだろう
なんで泣いていたのかは
わかるはずもない
まだ言葉を知らないから
叫んだのかもしれない
ただ言葉にならないものを
叫んだのかもしれない
もう、言葉にならない詩を
叫んだのかもしれない
産み落とされた苦しみを
***
あなたへの手紙を朝に夕に、書き殴り
そうして、なんとか、行き帰る
ポストは変わらず待っていて
腹を空かせて待っていて
銀の唇には蜘蛛の巣
それをゆっくり
ひき裂いて
手紙がなかへ、なかへと
舞い落ちて、虚ろを満たしていくと
わたしは軽やかな器になっていく