このまま
高林 光
首筋から這わせた指先が
胸の先にかすかに触れる
少し切なそうな顔をしてあなたは
そっと目を閉じた
夕暮れ
カーテンを引いた部屋に
隙間から少しだけ
黄色い光が差し込む
言葉で伝えなければいけないことのまわりを
言葉だけでは伝わらない想いが包み込む
細い指先だけでは心もとなくて、ぼくは
目を閉じたあなたの
瞼の奥をじっと見つめる
このまま
何もまとわないふたつの身体だけではなく
言葉も、想いも朽ち果ててしまうまで
ひとつでいたいと願ったとき
あなたの飼っている猫が
いつもと同じ、冷蔵庫の上から
言葉を必要としない目で
ぼくらを覗いている