ぽりせつ

表通りの あわただしい正午に
ようやく腰をおろすと
さっきまで 見知らぬ背中が座っていたはずの
この 革張りのカウンターチェアが
ぽっかり冷たい

ーー記憶を失くした 若いピアニストのようだ
 王国に消された もうひとつの王国のようーーー

紙ナプキンに書く みじかい詩は
ホットコーヒーが来るまでの ささやかな悪習
祈りに名を借りた しずかな弱音

 『どうかわたしが
  必要なものだけで生きられるほど
  つよくありませんようにーー』

汚れのかわりに拭きとった
わたしの体温が 一つの詩となり
席をたてば すぐ
せわしい給仕に片付けられるだろう それでいい

ぬくもりの端っこも残らない
見知らぬ背中は わたし
  
とうめいな湯気のたつ
あわただしさの正体に戻り 街の雑踏へ
じき はこばれてゆく


自由詩Copyright ぽりせつ 2019-04-03 13:32:16
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