彼岸の、さくら
玉響
あの世にも
さくらはあるのかしら
彼岸の始まりの日に夢を見た
目の前には川が流れ
遠く向こう岸を眺めると
見渡す限りの桜が咲いていた
私は、はっとした
ここはさよならの岸辺
たぶん 自分は死んだのだ、と
けれども 生きていたときと同じ感覚なのだ
いったい何が違うのだろう
その時、気がついた
自分は死んだはずなのに
全く悲しくないことを
悲しくはないし
むしろ好奇心を持ってこの世界を見ていた
今まで近しい人たちが亡くなったときは
悲しくて泣き明かしたものだが
自分が死ぬ時はこんなにも呆気なく
飄々と逝ってしまうとは…
この日から
私は少しばかり変わったと思う
いつも 生の側から死を見ていたのに
つまりはこの世からあの世を見ていたのに
初めてあの世からこの世を視れたような…
そして それは既視感を伴っていた
アッ、シッテル、ワタシ…
なのに
何かが矛盾するかもしれないけれど
肉体を持って堪能する美しい世界と
肉体を持たずに堪能できる美しい世界とは
合わせ鏡のように相似形なのかも知れない、などと
あれから 確信めいたものを感じてしまう
ワタシハ、
ワタシタチハ、シッテイル
ホントウハ、シゴノセカイヲ、シッテイル
桜など咲けば
その感覚がリアルに蘇る
あの夢の岸辺で見た
見渡す限りの
さくら
サクラ
桜
時空を超えて
この花は
きっと彼岸でも咲き乱れている
いずれ 誰もが還る その世界
なつかしいあの場所でも
きっと