【 プラネタリウムの夏の空 】
豊嶋祐匠

  
  
  
  君と僕が出会った時は
  
  深い冬の中だった。
  
  そしてそれは、若き君の晩年。
  
  
  「 あの子を、最後までお願いします 」
  
  
  僕に向けられた言葉は
  
  君の母さんの、祈りだったに違いない。
  
  
  僕はその時、決めたんだ。
  
  君と共に最後まで生きると。
  
  
  
  君が買ってくれた、小さなプラネタリウム。
  
  
  
  寂しかった僕の部屋は
  
  季節はずれの、夏の夜空に変わった。
  
  
  
  「 私の星座が無いよ 」
  
  
  闇の中
  
  君は駄々をこねて、ずっと泣いていたっけ。
  
  
  「 仕方ないよ、これは夏の夜空なんだ 」
  
  「 獅子座は、春の星座なんだから 」
  
  
  優しく諭すと、君は笑って許してくれた。
  
  君が天使に見えた。
  
  
  
  桜が舞う頃
  
  君は僕の前から、静かに消えた。
  
  二度と同じ夜空を見る事は無くなった。
  
  
  独りで見る部屋の夜空はまるで
  
  僕の心の大きな空洞を映し出しているよう。
  
  
  
  君の泣き顔、君の温もり。
  
  君が笑ったあの時の声。
  
  それら全ての記憶が、涙を止める僕を許さない。
  
  
  
  プラネタリウムの夏の空。
  
  
  
  僕の星座の隣り。
  
  君が心から望んだ場所に
  
  僕は指先で、獅子座の星を大きく刻み込んだ。
  
  
  
  
  
  
  
初作 2000.1.18
  
  


自由詩 【 プラネタリウムの夏の空 】 Copyright 豊嶋祐匠 2019-03-31 11:33:10
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