夜を飛ぶ鳥・改稿版
帆場蔵人
磨り硝子の向こうをよぎったのは
夜を飛ぶ鳥なのだろうか
地に落ちていく誰かの魂だろうか
生れ落ちていく無垢な魂だろうか
それとも夜に自由を得る地を這う
人々の束の間の歓喜の夢かもしれない
窓の片隅にある灯台のひかり
もし夜を飛ぶ鳥がいるとしたら
あのひかりを目印にするだろう
或いは遠い故郷の火を胸に灯し
ぼくの見えぬところでとんだり
はねたり はじけたり
ぼくも行かなければならない
とんで はねて
鳥にはなれないだろう
けれど地を這い地を耕して
海から沢山の恵を受け取り
生きる人々のなかを歩む
ぼくは自分の灯台を
時折振り返りながら
いつかはじけていく
そのときこの泥に塗れた魂も
夜を飛ぶ鳥になるのかもしれない
磨り硝子 いちまい隔てた夜を
鳥たちがあらゆる方角に落下していく