春のこと
はるな


とおーい 声がするのを、するのを見ている。蛇腹にたたんだ気持のなかで子どもが泣いている。あかるい窓べ、海べ、岸辺。
心に彼岸はないから、いつまでも分かり合えない。猫たち性懲りもなく恋する。
髪の毛すくなくて、ほそいみつあみしてたよね。
そういうあなたは白くて消えそうだった。
結局夏になれば香ばしく日焼けるんだけど、一日は気がとおくなるくらい長くって。
ばらの花が咲くのを待って遠まわりしたね、
沙羅の花じゃなかったっけ?
潰れた駄菓子屋がみるみる駐車場になっていく様子。(そんなのが街じゅうで起こっていた)。

風がつよくてね。

きょう、ばらばらに壊れても、明日がちゃんと来るんだってわかってた。
そして明日には明日のぶん、またグチャグチャになるんだった。
そうやって積みあげてそれは崩れたりはしないんだけど、もっと悪いなにか。
なにかっていうのがわかれば そうはならないんだろうね。
って言いながら問題を探してる、猫の恋、ばらの花に細いみつあみ。
みえるもの、触れるものは格別だから、(だって忘れても存在するもの)、ひとつでも多く体験する必要があるんだった。
そうやって積み上げてそれは崩れたりはしないんだけど、もっと悪いなにか。

風がつよくて。

同じ時間だけ髪を伸ばしても、同じ長さにはならないよね。
同じ枝から咲く花の色だって同じじゃないし。
金鳳花、ひかりに溶ける花びら、いつになったら実がなるかな?
女という呪いのなかで咲けるなら、がびがびの体操服をきるのもがまんしようっておもった。洗われない絵筆、汚れたパレット、幾重にもかさなってあたらしい悲しいをつくる、そうだ、わたしたちは、みていたよね。
とおーい声がするのを、手のひらのさきとか、つま先の向こうがわにみていた。女が呪いじゃないなら、咲かなくてもいいなら、分かり合えなくても良いのなら。実らなくても良いのなら、恋だってするんだよ。猫がするみたいに、はだしで、声をあげてね。
あしたは晴れるでしょう、って人工音声がおしえてくれる。
いいえ、キスが降りますよ、ってわたしたちは言う。



自由詩 春のこと Copyright はるな 2019-03-21 16:04:48
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