雨降蝙蝠傘/想像絵本
beebee
居間のコタツに当たりながら、宿題の絵日記を書いていると、お母さん
が台所から出て来た。
「コタツで寝たらだめよ。何をしているの。」
「冬休みの宿題だよ。休みの間にあった事を絵日記に書くんだ。」
お母さんが覗き込んで来たけれど、僕は両手で隠して見えないようにし
た。
「何よ、けちね。」
そう言うと、お母さんは台所の方へ戻って行った。
ふふん、中々良くできているんだよと独り言を言う。隣でべったりとう
つ伏せに寝ているジェニーが顔を起こして僕を見上げた。
「そうだね、お前は出て来ないね。どうしようかな。」
僕はシーズー犬のジェニーの体をワシワシ掴みながら言った。ジェニー
は15歳になって年老いて来たのか、身体が少し痩せてカサついた感じ
がした。年をとって動きが緩慢になって来たようだ。イヤイヤをするよ
うに僕の手の中で少し身体を硬くした。僕は書きかけの絵日記を見直し
た。
(扉の絵)
雨傘をさしてニッコリ笑う僕の横顔のアップ。なかなかハンサムなんだ
よ。雨傘はお父さんの蝙蝠傘だ。広げると僕がすっぽり入るぐらい大き
くて、とても重たい。たたむと膨らんでボタンを止めるのが難しいんだ
。自分用の小さな傘も右手に下げているよ。
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(絵 その1)
雨傘をさして飛び出して行く僕の後ろ姿。地面には大きな水溜りがあっ
て、僕がそれを飛び越えてジャンプしているところだ。
雨降り
お迎え
飛び出した
大きな黒い傘さして
父さん
お迎え
飛び出した
ちゃん ちゃん ぴしゃん
ちゃん ぴしゃん
(絵 その2)
大きな黒い傘をビュンビュン回す僕と周りに跳ね飛ぶ雫、雫、雫。そこ
に大きな飴玉のような雨粒が落ちて来る。蝙蝠傘は重いので回すとクル
クルよく回るんだ。ピュンピュンって感じ。通行人は雫を嫌がってみん
な左右に別れて逃げて行く。その中を颯爽と歩いて行く僕の姿。
雨傘
雨傘
どうしましょ
くるくる回して
回されて
雫を回りに
飛ばしましょ
ぴゅん ぴゅん 飛ばせ
ぴゅん 飛ばせ
(絵 その3)
駅前は賑やかで、改札口からは人がいっぱい出て来るんだ。傘を差しな
がら父さんを待つ僕のシルエット。右手には小さな自分用の傘を持って
ツンツン舗道をつつくんだ、リズミカルにね。
雨降り
お迎え
楽しいな
雨降り
お迎え
嬉しいな
ちゃん ちゃん ぴしゃん
ちゃん ぴしゃん
雨傘
雨傘
重たいよ
今日の雨傘大きいよ
父さんの傘
さして来た
ぴゅん ぴゅん 飛ばせ
ぴゅん 飛ばせ
そこまで書いたところで、お父さんが帰って来た。
「ただいま。」
居間に入って来ると、お父さんは僕に話しかけて来た。
「何を書いているんだい。」
「冬休みの宿題だよ。絵日記を書いているんだ。こないだのお迎えを書
いているんだ。凄く上手く描けているんだよ。」
僕が自慢して差し出すと、どれどれと見て言った。
「えーっ、あの時傘を振り回して雫を飛ばしたりしたのか。みんなに迷
惑じゃないか。」
「ちょっとふざけただけだよ。」
「お父さん、お風呂沸いているから先に入っていいわよ。もう少しで食
事の用意もできるから。」
お母さんが台所から声をかけて来た。
「さっきから、私には見せてくれないのよ。」
お父さんはダメだダメだと言いながら、お風呂に入りに行った。
頭にきたぞ。お父さんは悪役だから、やっつけないとダメだ。
「ジェニーだけが僕の味方だよ。」
そう言ってまたジェニーの身体をワシワシ掴むと、ジェニーは少し怒っ
たのか今度は低い声を出して唸った。
僕は思いついて絵日記の続きを書き出した。
(絵その4)
黒々とした大きい影が突然現れた。お父さん大魔人だ。賑やかな商店街
へよそ見をしていた僕を、横から大きな黒い手を伸ばして来てギュッと
捕まえた。突然のことで僕は傘を持った手を大きく広げて驚くよ。わぁ
って、飛び上がる僕。
飛んで来た
飛んで来た
大きな黒い手を伸ばし
くろぐろ大きな影が
飛んで来た
大きな
黒い手を伸ばし
大きな
くろぐろ大魔人
飛んで来た
父さん
くろぐろ大魔人
大きな
黒い手を伸ばし
小さな
ぼくを
捕まえた
(絵 その5)
びっくりした僕があばれて水溜りを飛び跳ねるんだ。周り中に雫を飛ば
して飛び上がる僕。簡単には大魔人には捕まらないよ。大魔人に反撃だ
。手をすり抜けて水溜りで大暴れだ。
だから じゃんぷ じゃんぷ じゃんぷ
ばん ばん ばしゃん
ばん ばしゃん
うへ!!
大きな魔人が
驚いて
こうさん
こうさん
泣き出した
(絵 その6)
大粒の雨と跳ねた雫でびしょ濡れになるお父さんが天を仰ぐ。それでも
僕はやめないで水溜りを飛び跳ねるんだ。するとお父さん大魔人は泣
き出してしまうんだ。
だから じゃんぷ じゃんぷ じゃんぷ
ばん ばん ばしゃん
ばん ばしゃん
助けてくれ!!
大きな魔人が
驚いて
こうさん
こうさん
泣き出した
(絵 その7)
いつの間にか大きな黒い蝙蝠傘に掴まって、一緒にジャンプする二人
。だから、ジャンプ、ジャンプ、って。びしょ濡れの父さんももう諦
めて、一緒に笑って飛び跳ねるんだ。
すっぽり
大きな父さんも
いっしょに
大きな黒い傘
だから いっしょに
じゃんぷ じゃんぷ
ばん ばん ばしゃん
ばん ばしゃん
こりゃ、楽しいぞ!!
だから じゃんぷ じゃんぷ じゃんぷ
ばん ばん ばしゃん
ばん ばしゃん
(絵 その8)
大きな黒い雨傘と小さい雨傘の二つが並んで歩いて行く。大きな水溜
りに黄色い街灯の明かりが映って輝いていた。
(扉の絵)
浴槽に入っている僕と体を洗う大きな父さんの背中。浴槽には黄色い
アヒルの人形がプカプカ浮かんでいて、そこからシャボン玉が溢れ出
して、お風呂場は大洪水だ。その中をジェニーが元気に泳いでいる。
お終いだよ。お終い!
いつの間にか僕はコタツの中で眠り込んでいた。コタツ布団に潜り込
んで首だけ出して眠っていた。ジェニーが横腹を押し付けて来て顔に
当たった。ジェニーの毛の薄くなったお腹は暖かくて気持ちよかった。
「あらあら、だめじゃない。」
お母さんは居間に入って来ると僕の絵日記を覗き込んだ。
「お母さんだけ登場しないのは、不公平よね。」
お母さんはニヤリと笑うと僕の絵日記に少し書き足した。
(扉の絵:追加分)
洗濯機を回しながら風呂場の外から声をかけるお母さん。洗濯籠は雨
水と泥で汚れた洗濯物でいっぱいだ。二人ともちゃんと温まるのよ!
大きな吹き出しを書き足した。二人とも私の仕事ばかり増やしてと
呟いた。やっぱりお母さんもいなくちゃねって、舌を出した。
これで、本当のお終い。