君の在る情景
塔野夏子
Ⅰ
いちばん繊細な季節が
君の心をうす青くゆらめかす
君は君自身の内部へ
幾重にも囁く ひそやかに震える叙情詩を
季節の弦と鍵盤とが
君の想いを奏でるままに
銀のきらめきを 彼方へと走らす
幼い日 君をふしぎに惹きつけた
ものうげな美しいひとのいる方へと――
Ⅱ
君はひとつの神話を識る
それは君を創りだしたものでもあり
君の内から湧きあがったものでもある
それは今 誇り高い叙事詩として
あふれ出す 踊る君の肢体を
語り部として 力強くうねってゆく
踊る君の肢体から マントのよう翻るのは
君の始源へのあざやかな追憶と
そして君を曳いてゆく 狂おしい憧れと
君は踊りゆく 語られる君と
語る君とを ひとつに結びあわせながら
力強く まだ見ぬ果てへ まだ知らぬ頂へと