あなたはさかな
やまうちあつし

部屋に魚がいる
いつの頃からか住み着いたのだ
水槽に水を入れ勧めてみたが
お気遣いなく、と辞退する
空気の中を平気で泳ぎ
窓から外を眺めたり
ソファーにちょこんと座ったり
いつしか気心が知れ
仕事の愚痴や将来の話を
魚は相槌をうち
なかなかの聞き上手
私は真夜中に目を覚ます
あの日以来いつものこと
魚はいつでも横に寝ている
ご存知の通り
魚にはまぶたがないので
目を丸く見開いたままだ
眠っているのか起きているのか
定かではないけれど
わかるのはその目には
たくさん水が溜まっていること
私はある日
ついに打ち明ける
帰ってこない肉親のこと
流れてしまったふるさとのこと
魚は黙って聞いていたが
部屋の窓を開けるように言う
そしてこれまで
生活を共にしたことの
礼を述べると
部屋の窓から外界へ
泳ぎだしてゆく
連絡する、とだけ言い残し


自由詩 あなたはさかな Copyright やまうちあつし 2019-03-14 16:37:48
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