虐待
印あかり
死にゆく蛍がかじった、かもがやの隙間の細い風
すっかり軽くなった腹を抱え
夜霧の中をしっとり歩いている
大きな風に
人の声が洗われて、草木の本当の
美しさを見る日を待ちわびていた
蛍は一匹、二匹、死に、生きたものも光るのをやめた
埃の甘く匂う本が好きで
積み上げては崩していた
両の頬に詰めこんだ言葉でにっこり笑ってみせた
無邪気に罅が入り、羊水が零れて
生まれたものがわたしの目を見つめ返してくれるまで
灯りもつけずに待っていた
そのうち
壁に書きつらねた数が振り子をぶちはじめた
声にすることを怠ったから
わたしは痛みの中に閉じられた
露をまとって震えるそれを
読みあげた人から飛び立ったらしい
風の吹き抜ける朝へ
知らない人々の声が降り注ぎ
夢のようなさようなら
あれから何度声をあげて泣いたろう
何に惹かれて、何を恐れたのか
細い風を噛みながら考える
眠りに守られる夜をやめたこの頃は
風の脆い朝でも美しいと思える