内ポケット
ふじりゅう

中途半端な道 ここは
吊革の音すら響く 人跡未踏の車中

一角うって
はらって うって 伸ばして その
掠れ具合までに 閉じ込めた
狂気の手紙が今は己の
たったひとつの シャボン玉

空気中に生き着くウィルスを掻き分け
曲がったネクタイで ひとしきり
ごめんなさい 雨水を啜って
ひと齧りして捨てるパンみたいな辞表を
内ポケに捻じ隠したままの営業まわりは
ヤニクラの勢いでぶっ倒れ
ゴキブリのように這う布団虫と同じだ
誰にか分からないけど 電話をかけようか
何処に自分が居るか、もう分かってないのだから

まだ赤いビー玉の跡が転がっている
血眼の色滲むATMの中の数字が
エアコンで コタツで テレビで
証明で AV視聴で 冷蔵庫で 充電で 日に日に
じっくりと溶かして 溶けてゆく
雨漏りは 4合炊きの炊飯器くらい
胃袋で膨れ上がっている
台風で空気が揺れていて、
ウィルスとウィルスの間に新しい土煙が割り込む
失礼します 経済の濁流へバタン
室内に入るだけで失礼にあたる我々の扱いを疑っている
ゲロまみれになるほど 服の内側から
胸全体にかけてが こんがらがって
体全体から溢れる叫び声に
押し殺されながら ねじっ ねじと
布団虫へ退化した もう限界だった ぁ


自由詩 内ポケット Copyright ふじりゅう 2019-03-10 14:22:35
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