思い出
田中修子

「モラトリアム」

貝殻の中で

海の響きに耳を澄ませていた

澱んだ温かさの中で

海の響きは一筋の救いのよう

澱んだ温かさの中で

貝殻の砕ける日を待っていた


「白い影」

多くの白い影が
すり抜けていく
流れの中で
みあげて
空の青と 雲もまた
すり抜けていき
全てが私を置いて
より良い方向へ向かおうと
視線を真っすぐにしている中で

ひとり立ちすくみ

風が吹き
雲も
白い影も
去って


「片想い」


まわる扇風機の網の中に手を突っ込んだように
割れる指の皮膚のように
千切れ飛ぶ肉のかけらのように

あんたのまなざしはあんまりに鮮烈でした。

全ての痛覚が理性を裏切って
視線のそそがれるところに走りこんでゆきました
ひとつでも多く、痛みを甘受するために。

あんたのまなざしは、あんまりにも、
私にとって美しいものでした。それはそれはあまりにも美しいものでした。


「とむらい」

私が死んだら
人の訪れぬ山奥にあお向けに寝かせてほしい
できれば林の中がいい
目を開けると
木漏れ日がキラキラするようなところがいい

そして私を愛する人は
墓守りになって私の隣に眠ってほしい

たくさんの傷口から
虫たちは体に潜り込んでくれるだろう
死体の
冷たい体を暖めるようにして愛撫してくれるだろう

やがて腐りかけた死体の上に
一粒の種が落ちるだろう
ふるふると根を心臓に延ばしてくれるだろう
いつしか双葉を出すだろう
だれも支配できなかった私の体を
優しく支配して私は体の力を抜くだろう

だから

私が死んだら
人の訪れぬ山奥にあお向けに寝かせてほしい
できれば林の中がいい
目を開けると
木漏れ日がキラキラするようなところがいい

<中学校のころの作品に少し手をいれたりいれなかったり。
こちらに記録させていただきます>


自由詩 思い出 Copyright 田中修子 2019-02-18 20:15:32
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