樽のなかの夢
帆場蔵人
ほら、樽のなかでお眠りなさい
煩わしいすべてをわすれて
檸檬かしら、いえ、林檎でもいいわ
樽のなかを香気で満たしてあげます
息を潜めて、あ、とも、うん、とも
言わないで猟犬を連れた
猟師たちが立ち去るまで
いいえ、いつまでいても構わない
やがて涙で樽が満たされたら
言葉も忘れて悲しみも忘れて
丸く円くまるく果実のひとつになって
檸檬でも林檎でもない不思議な果実に
なれることでしょう
綺麗に磨いてあげましょう
あなたの痕跡は果実の皮に
微かに残る涙の微かな曇り
丸く円くまるくまろい果実
出荷され輪切りにされても
もう誰もあなたに気づきはしない
ほら、樽のなかでお眠りなさい