Lyonにて
服部 剛
ドアを開くと
幾十年も変わらぬ空気の
Piano Bar Lyon
カウンターに腰を下ろした僕は
ピンク色のグラスを傾ける
ピアノの周囲には
いくつかのアコーディオン達が
寂れた時を待っている
どうやらこの世には
日々の偶然もあるらしい
赤く温もる椅子に座る
シルクハットに白髭のマスターが
寡黙に眼鏡を拭いている
テレビ画面は
或る夜のライブパーティー
マスターは鍵盤に指を滑らせる
さりげない挨拶の後
僕は問う
――マスター、その眼鏡をかけると
今宵の夢は視れますか?
眼鏡をかけたマスターは
鍵盤へ目線を移し
ゆっくりと腰をあげた