6文字の冬
うめバア

今朝、新聞で見た6文字
「帰還困難区域」

関係ない人だというのに
ふと、ふうっと、ため息が伝いました

だれかの家に残された
食器や、棚や、ドアの傷
スーパーのビニール袋や、プラスチックの容器たち
かつての、だれかの、生活の音が
私の記憶と重なって

そうじゃない、私は帰れていないわけじゃない
ちゃんと
片付けもした、あの日からの全てを
紙切れ1枚、ええ
でも、ちゃんと出した
印鑑もついた
決め事も、もめごとも、終わった

後悔や未練なら、何とか自分でやり過ごす
怒りや不安や、心ない言葉の数々なら・・・
だけど

今ひとたび思うのは
あの日の午後の、柔らかい日差し
わたしが「日常」と呼んでいた
あの場所、あの匂い、あの木立の傾き
勝手な場所におかれたリモコンや
小さなお気に入りのスペースの珈琲の香り
わたしが「好き」と集めた物たち、影たち、光たち

まだ言っているの?そんなこと
まさか、帰りたいとか、戻りたいとか、そうじゃない
わたしが日常と呼んでいた
あの場所は
たしかに不安や、恐怖や、劣等感のある場所だった
それでも、確かに、わたしの場所はあった
どんなに小さく、些細なものでも
だからこそ
大切にしていた

わたしだけの、ものがたり
「帰還困難区域」


自由詩 6文字の冬 Copyright うめバア 2019-01-19 16:33:46
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