線路はどこまでつづくのか
トンネルの向こうに
白い世界が見えるが ちかづいてくると
どうやら画布だ トンネルの出口は大きな世界地図で塞がれている
列車は べつだんなんのアナウンスもなく 地図に突入してゆく
息をのんでおもわず目をつぶるまぎわに
つり革の人の革靴の足に力が入り すこし屈伸したのを見たと同時に
風圧とともに画布の破れる音がして世界は広がった
なんという地平だろう
なんという明るさだろう
しばらく列車は陽気に前に進んでいたが
ふたたびトンネルにさしかかった
トンネルの向こうに
白い世界が見えるが ちかづいてくる
こんどの画布には 日本地図が描かれている
列車は とりたててさわぎたてるものもなく 地図に突入してゆく
もう呼吸をあらだてるほどのことではない
すこし余裕ぎみに窓の外を見ると 風圧とともに画布の破れる音がして
なにやら故郷の文字を確認した気がしたが、はて
日本のことを忘れた
なんという水平線だろう
なんという清々しさだろう
列車はより一層加速して またまたトンネルにさしかかった
列車の中に短い音楽が流れたあと アナウンスが入った
「いつも ご乗車ありがとうございます。
この列車は、あなたの心の中に向かいます。
つぎは こころの中 こころの中」
バシュという音がして列車は
自宅の家の近くの駅に止まった
遮断機があがり 家路に向かう
突き当りの家には 薔薇が咲きそうだ
今日は見慣れない車が止まっている
車体番号には【遠くから来た】と書かれていた。
表札をみると【薔薇は蕾】と、立派な明朝体で掲げられていた。
はてと思いながら
そのお隣の表札を読んでみると【地域猫在中】と書かれている。
なんという名前の猫だったろう
みんなちがう名前で呼んでいるはず
家にたどり着く前に 隣の人とすれ違って
聞いたことのない名前で私のことを呼んだが
まちがいなく不思議なその名前が私の名前だということが、分かった
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即興投稿板参加作品です。
お題は、はさみさんです。まだ まだ 時間ありますよ。
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