「約束をしないで会えたら僥倖」
桐ヶ谷忍
またね、とは言わない
また会える前提で手を振った幾人かが
二度と会えなくなったから
立ち去るとき
そういう人は足音をたてない
寸、寸、寸、と離れていく
私もまたそうしてきた
いかにもまた楽しい時間をすごそうと
暗黙の約束を結んだ笑顔で
じっと影を踏まれない所まで離れてから
もうそれきりにした人たち
泣いたり泣かせたりして
花びらを一枚ずつ散らし
だんだん花芯だけになっていくように
私の知らないところで
あなたの知らないところで
共有出来ていたかなしみを
たったひとりで持て余す夕方に
どんなに引き伸ばしても
もう誰にも届かないのに
この影の内に誰かいないかと
探してしまう癖を
きっと誰もが抱えている
我が儘な私たちは臆病でもあり
立ち去る理由を告げず決別する
さようならと言って別れる優しさを
持てないまま