ほころぶほろび
秋葉竹



来なくてもいい。


なんども待ち侘びた声の残滓が

まじわる心のゆく先に咲く

いっぽんのありえない人生に追いついて

その熱さに目もそむけ

2度と見られなくなったとしても。



あなたの瞳に忍び込んだ

悲しみの色合いは、まだ、

1度も見たことのない魔術だから。



来なくてもいい。


だから、それを、追わなくていい。

誰からも好かれない心を映す鏡を

叩き割って、しまいたくても

そこにあるべきものがあるように

見たこともない純粋な目を持つ鏡を

置いておく必要があり

その顔を引きつらせた真摯な祈りの狭間に

夜に棄て去る2色の夢と

狂おしい甘さの愛しさの香りを

抱いて眠るように、夜の女になる



来なくてもいい。


聴こえない愛の囁きが

フクロウの森の中で泣く夜の

やがてゆうるりと立ち上がる女郎蜘蛛の

黄色い花の声に掻き消されたから

届いたまぼろし色の安らぎの頬を撫で

静かにしなさいと目でかるく注意をして

お互い冷たいくちづけをかわすとき

握り締めあった情熱のてのひらの熱量が

ふたりの心を均等に溶かしあい

ほかには伝わらない生きる意味のすべてを

共有すると誓ったんだそれをたましいの

片割れ同士と呼ぶのだと

降り積もる白雪に醒めた目で

なじるように教えられた



来なくてもいい。


そんな世界の終わりが今夜、

始まるのだとすれば、

その中心に鮮やかに聳え立つ正義を貴いと思えと

無理強いする正しい人生なんて、

このあとにもさきにも、

来なくてもいい、それでほろぶのだとしてさえ、いい






自由詩 ほころぶほろび Copyright 秋葉竹 2018-12-25 19:53:18
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