冬はコートを纒い、何かを隠している
帆場蔵人

手放したコートが風に舞い
風がコートを羽織っているようだ
見知らぬ少年がそれに目を
奪われている足元には
踏みつけられた草花が痛々しい
何も人に与えられないから
たまになんでも手放してしまう
寒空に落ちていくコートは
自由に鳥とともに飛び
落ちるときには花を優しく
包んでくれるだろう

一心不乱に、祈るように

男は路上に座り込み、雑踏に背を向けている
大量の紙に線を!点を! 支離滅裂に?
文字なのか?記号なのか?地図なのか?
愛の失禁か、いや楽譜かもしれない

それは
秘されている

(彼なりの意味が重なり、積み上げられた紙は神殿のようだ)

誰もがみないふりをするなかでその背は
あまりに真摯で、熱に満ちて、踏みつけられた
草花と同じく神秘的だ

秘された意味がある、意味を見いだすのだ
わたしには意味はなくとも

地球の反対側で撃ち殺されたひとが落としたコーヒーの甘い香り、廃れていくフィジー諸島の伝統料理、酔っ払った猫はいずれ水に落ちて死んだけれど死後も愛されている、おまえを知らない人がどれだけいるのだろう、感じてほしい

そんなことに意味がありますか?

手放したコートが風に舞い
風がコートを羽織っているようだ
見知らぬ少年はそれに目を奪われ
足元の踏みつけられた草花を
見つめている少女に気づかない
得難いもの、どうでもよくも得難い
秘されたものがぼくらを繋いで
すぐに消えてみな、歩みさる

何も人に与えられないから
たまになんでも手放してしまう
寒空に落ちていくコートは
自由に鳥とともに飛び
落ちるときには花を
優しく包んでくれるだろう
それはもう間違いなく
意味などないけれど


自由詩 冬はコートを纒い、何かを隠している Copyright 帆場蔵人 2018-12-22 02:17:18
notebook Home 戻る