夕暮れ
新染因循


夕暮れという輝きが街を流したのは
言葉が言葉になるよりも、ずっと前のこと。

地平から幾筋にも分岐した時間は
人びとの膝下で、打ち寄っては引いて……。

わたしは誘われている。
どことも知れない空の下に。

夕暮れはますます色を深めて
雲は千々に姿をかえて過ぎさるばかりだ。

この空の彼方には
風景たちの、色褪せ、欠けてしまった記憶たちの
墓場がある。

凪いだ空の雲のように、影たちは、在る。
静けさというなによりも確かな言葉で
燃えたつように語りかけてくる。

わたしの上で身を翻したのは
きっと、化石になった、いつかの、しっぽ。

思い出さなければ。
そして忘れよう。

明日もまた夕暮れが街を流して
きっと、わたしは、かけらになった。


自由詩 夕暮れ Copyright 新染因循 2018-12-20 20:29:14
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