夕暮れ
新染因循
夕暮れという輝きが街を流したのは
言葉が言葉になるよりも、ずっと前のこと。
地平から幾筋にも分岐した時間は
人びとの膝下で、打ち寄っては引いて……。
わたしは誘われている。
どことも知れない空の下に。
夕暮れはますます色を深めて
雲は千々に姿をかえて過ぎさるばかりだ。
この空の彼方には
風景たちの、色褪せ、欠けてしまった記憶たちの
墓場がある。
凪いだ空の雲のように、影たちは、在る。
静けさというなによりも確かな言葉で
燃えたつように語りかけてくる。
わたしの上で身を翻したのは
きっと、化石になった、いつかの、しっぽ。
思い出さなければ。
そして忘れよう。
明日もまた夕暮れが街を流して
きっと、わたしは、かけらになった。