走り抜ける街を
坂本瞳子
少し怖くなって
駆け出した
他人のことを
ジロジロと見たりしてはいけない
それくらいのことは
分かっている
けれど見てしまったのは
決して見とれた訳ではなくて
動きが怪しかったから
自らの腰のまわりで
手をぶらぶらさせたりして
気づいたときにはあちらもこちらを見ていた
目が合ったと認識できる前に
目を反らした
ちょうど曲がった道に入ると
人気がなくて
ついてくるのが分かったから
駆け出した
冬の始まり
厚手のコート
駆け出すと汗をかいた
手袋の中の手が湿っていた
もう振り向かない
振り向いてまだ付いて来ていたら
怖いじゃないか
ウチまではまだ少しあるけれど
振り向かずにそのまま突っ走れ
買い物なんて明日でいい