傲慢の火
新染因循

太陽がとおく大洋の彼方を翔ぶ。
あらゆる波には
千々の銀箔が散りばめられていた。

不滅の翼などはない。
宙に驕った罰であろうか、
この黄金には蒸発さえ赦されない。

落日。

あらゆる目が絶え、あらゆる影が消え、
波濤にくだけた一日という身投げを
海辺のわたしは、みる。

風も止むような静寂と
わたしに打ち寄せる波、波、波。

わたしは叫んでいた。
大口を開けて叫んでいた。
かき消すように奔流が
わたしへと叫びかえしていた!

海面は覆されたような黒の
そのうちで悲鳴を反芻していた。
揺らめく幾筋もの手に吐き出されて
わたしは空を見あげた。

波一つない空を見あげると、
押し固められた銀の輝きがあった。

覆されてしまった銀の輝きである!
わたしの知った海の輝きである!

わたしは
揺れていた、いな、
落下していた、いな、
飛びたっていた、いな、
燃えあがっていた!

いかなる魔術の業ゆえか
わたしの眼下ではわたしを
赦すことのない波紋の群れが
つめたき銀色を幾重にも深めて
わたしを、しずかに、睥睨している。

わたしはもう、叫ぶべき口も
伸ばすべき腕もなくして、
わたしという叫びとなって、

存在しようと、
その身がまるく捩れてなお
わたし、は 存在しようと、
存在しようと、

燃えさかる。
空のすべてを焦がそうとしてなお、
焦がせなかったものすべてを
焦がそうと、
赫赫と燃えさかり、

ただ、
燃える。



自由詩 傲慢の火 Copyright 新染因循 2018-12-10 00:04:07
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