およそ一千年前の一夜に
こたきひろし

およそ一千年前の一夜に
彼は女の人からそのからだけを買いました

およそ一千年前の一夜に彼は
首都の街で
女の人から からだだけを売って貰った
自分が働いて 手に入れた金で

肉体の欲望に汚いも綺麗もないと思います
性を売買の対象にする
事の是非は
何ら彼の心に躊躇の影を落としませんでした

その頃 彼には
たしかに一途に思う異性が存在していました
それは高くたかく
彼のたましいを高揚させる恋愛感情でした
しかし
けれど
それはただただ切なく胸をかきむしられるだけの片恋でした

およそ一千年前の一夜に
彼は未成年でした
およそ一千年前の一夜まで
彼はまさしく童貞でした

彼は緊張して
そのか弱い心臓がガタガタと震えました
そのせいか
結果はNG でした
それって童貞を卒業した事にはならないだろうか
単純に
なけなしの金を溝に捨てたのといっしょだったのか

女の人は最初優しく接してくれたが
その内に苛立ってあからさまに感情を態度に表わした

そしてひとこと言った言葉はじゅうぶんに彼のやわらかい心を傷つけた
容赦の感じられない言葉だった
「だから童貞は嫌なのよ、めんどうくさいから」

およそ一千年前の一夜に
彼の心は著しく打ちのめされて
自分はいったいここへ何をしに来たのかわからなくなってしまい
情けなくも悲しくも
惨めな思いだけを冷たい釘のように打ち込まれた

およそ一千年前の一夜に
およそ一千年前の一夜に





自由詩 およそ一千年前の一夜に Copyright こたきひろし 2018-12-05 06:29:45
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