剪定
新染因循
繰り返される奇蹟の剪定。
無造作に投げられた肥料袋の中
目一杯に、名のかけらもない痩けた原住民。
命を表象した符号がうねる交差点。
ときおり霞むような速さで、伐採、
あるいは収穫をおこなう、交信中の仔羊の散瞳。
肥えた、戦禍で編んだスーツを着た、逃げ惑う老人と、
その指からこぼれたショッポの吸い殻。
それを路地裏から見ている、右腕の欠けたわたし。
逆光と、けたたましい金切り声へと、
吸い殻だ、それでも袋詰めにはなりたくないと
駆け出したわたし。
街路樹の根にすわれる、希釈された葡萄酒、
黒ずんでひび割れたのどを濡らした奇蹟、
それは雑踏の腹いせにふんづけられる、血、
たしかになによりも赤かった、わたしの血。
時代の谷間に、憎々しいほどに拓けた青。
握りしめた指のように白むわたしの空へ、
誰かが投げ捨てた真っ白な包帯を巻いた右腕。
あの老人の煙草をしゃぶる、血統書つきの赤子。
嘲笑うように羽ばたきを繰りかえすカラスと
夢を貪られて吐瀉物にわらうゴミ袋。
それに群がる半世紀前の幻影たちだって、
ねぶるものをなくした胎児。
太陽を、生きとし生けるものすべてが一度は仰いだ太陽を、
貪るように劈いていく真っ黒なカラス。
誰もが溺れている、剪定された運命から零れたコールタール。
袋のなかから微笑みかけた、骸を抱えた鏡の中。