人は誰でも骨壺へ
こたきひろし

父親から電話がかかってきた
滅多に電話なんてかけてこない人だ
よほどの事がないかぎり電話をかけてこない人が
その日、その時かけてきた

電話口に出ると
いきなり
ひろしか、父ちゃんだ
父ちゃんもう駄目だから
会いにこい
と言いやがった

何だよいきなり!駄目って何が駄目なんだよ?
私が言い返すと
間もなく死ぬって事だよ
答えてきたから
悪い冗談止めろよって言ってやったら
冗談でこんな電話できるか
お前なんかに電話なんかするかよ
本気モードで声を大きくしてきたから
何でだよ?何で死ぬんだよ
私も本気モードに突入すると
風呂場で倒れちまった
頭の血管切れちまって
救急車で病院に運ばれた
言い出したから
そんな話聞いてねえぞ
私の方は頭に血が上ってきた
すると父親は言った
お前なんかに知らせたくなかったんだ
みんなお前に気を使ったんだよ
いつも忙しく働いているお前によ

でも今度ばかりは父ちゃん駄目だからよ
お前にも親の死に目に会わせてやらなきゃならないからよ
そう言うもんだから
私は怖くなって
父ちゃんの気持ちはわかるけど、そんな事自分でしたら死期を早めるだけだろ
私はやさしく言い聞かせるように言った
すると父親は
わかったよ、お前のいう通りだ
父ちゃんは病室のベッドに戻って眠るよ
すっかり父親は大人しくなって受話器を切りそうな気配に
私は思わず大きな声で制止した

父ちゃん、眠っちゃ駄目だ!
と。

父親の葬儀では
私は骨壺を抱かせる役目を親族から言われた
焼かれたばかりの骨は熱くて
骨壺は持っていると火傷しそうだった。








自由詩 人は誰でも骨壺へ Copyright こたきひろし 2018-11-07 01:16:39
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