花束とへび
田中修子
ほら、わたしの胸のまん中に光をすいこむような闇があいていて、
そのうちがわに、花が咲いているでしょう。
ときたま目ぇつむってかおりに訊くんだ、
ああ、この花がうつくしく咲いているのはね
わたしの生き血をすって想い出になってるからなんだよね。
ひとはかんたんに、
かすれた声で
「もう死にます」
なんて言うんだ、
とてもまっ黒な眸でさ。
ほんとうはいつだってそうなんだよ
たださ、ひっしに目を逸らしているんだよ
皮を石にこする。じり、じり、とうろこのこげるにおいは、
いままで幾重も、剥いで、剥いで、剥いで、
おまえはいつか現実でみた夢を叶えるのだろう
それはこんな胸のなかでにおいたつ花とはきっと違うんだ
衝動が来たら深呼吸して
生きるんだよ。
こんなみっともない、くだらないからだで這いずってんだ
そうして皺が増えたわたしを、
ゆびさして笑え。
老いてとぐろを巻く、わたしの内側で、
別れたあの日のまんま、淡い輝きをはなつ花が
甘えて、眠っている。