南の信仰
春日線香
雀ほどの大きさの塊が手の中にある。線路に沿って歩くと片側がコンクリートで補強した斜面になり、さらに行くと竹藪の奥に家屋や井戸が打ち捨てられている。その先には登山道に続く道端に白い花の群生。あそこまで行く。あそこまでこの塊を持って行く。
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封筒には長い白髪の束と、古い紙幣が二千円分。表にも裏にも無記名。燃やすか流すかしたほうがいいのだろうができないでいる。
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塀の破れ目。ブロックの三つの穴が空を向いて、そのひとつにオロナミンCのビンが挿さっている。草むらから子供が飛び出してきてビンの口に指を突っ込む。これはあったこと。誰も憶えていない、誰も見ていない地上の。
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三輪車がテトラポットの隙間で朽ちている。フナムシの高貴な城がはるかに聳え、影は複雑な表情をする。釣り人が残していった浮きが散らばり、一人の影が両腕を上げて防波堤の先へ駆けていく。痩せ細った胸。南の信仰。フェニックスの木陰。
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彼は今、詩を書いている。
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火山由来の地下水が地下を通って海底に湧くらしい。アパートの駐車場にしゃがんで遊んでいた子供が、五時のチャイムを耳にして家に帰る。彼の家には広い窓がある。窓の向こうには湾があり、湾には古い町が沈んでいる。海の底で暮らす人々がいる。