夏の忘れ物
長崎螢太
1.蝉の脱け殻
階段を登っていると、カサリ と音がした
足もとに目をやると、蝉の脱け殻が潰れていた
私はそれが、崩れてしまわないように、
そっと、ポケットに仕舞った
2.虫籠
川土手の道を歩いていたら
道横の草むらに虫籠が落ちていて、
中を覗くと
アイスキャンディーの棒が、一本、入っていた
当たりではなかったのに
3.花火
公園の隅にひとつ、花火の燃え残りを目にした
何処かで、子供の笑い声が聴こえた
気がした
4.麦わら帽子
川面を見ると、麦わら帽子が水面を
滑るように流れてきた
あの子は、何処まで、旅をするのだろうか
5.私
毎年、夏が終わると、なにか忘れ物をしている
気持ちになる
だけど、それが何なのか思い出せたことは、
一度もなかった