神の蕾 ☆
atsuchan69
悪の力について話すと、まずそれは人類が築いた膨大な量の知識であり、科学であり、文明の礎である。たぶんそれらは真の神を必要としない、もしくは、「悪そのもの」の究極の姿が‥‥いや、ちがう。むしろ「悪そのもの」に反する、あの動物じみた集団的エクスタシーがもたらす得体の知れない生命の躍動が【神】なのかも知れなかった。それでも大勢の無知なる人の心には、感情から芽生えたコミュニケーションの背後に自然発生的な概念である善と悪とが差別化され、すなわち盗みや殺人は「悪」であり、また報酬を求めない協力や支援が「善」であるという「小さな共同体のルール」が彼らの生活を通じて幼少の頃から刷りこまれている。文明は彼らにとって都合の良い「神」を与え、彼らの周囲に(制度として)権威ある神の代理人や裁く者たちを配置した。初期の文明において「神」にはカタチが必要であった。それも出来るだけ巨大で畏怖を感じさせる姿(偶像)が好ましかった。しかし大勢の無知なる人がやがて広範囲な知識を持ちはじめると、カタチのある「神」では未来永劫に騙せないことを、神の代理人たちは風化し崩れてゆく偶像を背に気づきはじめた。そこで「神」の種類、さまざまな「神」の教えを分割し、広め、戦わせ、さらに新しい「神」を創出した。そもそも誰も天国へ行ったことなどなかったし、きわめて貧しい者にとってはこの世そのものが地獄に他ならなかった。そしていくつもの文明が「神」とともに興っては滅んでいった。古い「神々」は忘れ去られ、用済みの神の代理人たちは果てなく大地を彷徨う者となった。砂漠の砂嵐は、巨大な偶像をも神殿とともに砂に埋めた。●と、いうことで‥‥。私は、日蓮です。みなさんは立正安国論をご存知ですか? 知らない? だったらもういいです、じつを言うと私はマグマ大使です。あ、マグマ大使も知らない? じゃあ、ヨーダということで。私は、ヨーダだよーだ! なんちゃって。ちょっと楽屋裏の話をしますが、今どき「神」なんて誰も信じないでしょう。だから神の代理人としては、新しい【つかみ】が必要となってくるのです。現代においては、【つかみ】イコール【ちょっと、おバカな笑い】だと思います。さて、みなさんの心の中に「小さな共同体のルール」はまだ残されていますか? 多くの場合、罪とはこの「小さな共同体のルール」を破ることです。それでもこの「小さな共同体のルール」というのは、けして永遠不滅のルールなんかではなく、時と場所によって都合よく書き換えられます。たとえばある場所においてはセックスは完全にフリーですし、【祭】の場において殺人が行われる共同体も歴史上(本当は今もですが‥‥)存在しました。そういえば【法】において人は裁かれますが、【法】においても死刑執行というかたちで殺人は行われます。なので「小さな共同体のルール」を胸に抱いたちっぽけなみなさん、人はどうして罪を犯してはいけないのですか? もしもあなたたちが戦争へ行ったなら、この文明を維持すためのじつに都合の良い価値観によって殺人を行います。もちろん、この場合は敵軍である限り‥‥そして上層部からの完全な指示の下にある限りは人を殺しても【法】によって裁かれることはないでしょう。まあ、文明というか文明社会なんて所詮「小さな共同体のルール」を利用することはあっても「小さな共同体のルール」をちゃんと守ろうなんて気は微塵も持ち合わせていません。守るべきもの‥‥まずそれは人類が築いた膨大な量の知識であり、科学であり、文明なのです。嫌なら、エアコンのスイッチをoffにしてさっさと裸のままこの街を出て行くべきです。悪の力、すなわち古(いにしえ)の代から灯しつづけてきた「プロメーテウスの火」は、たとえちっぽけな皆さん方が幾人‥‥それとも幾千万人死のうが知ったこっちゃない、これからも永遠に我らヒト属による文明の火を灯しつづけて行かねばならないのです。いいですか? みなさん、もちろんこの世界はみなさんの為にあるのですよ。しかし話を最初に戻しますが、文明そのものの正体は‥‥本来は過酷(あるいは寛大)な自然界という環境にあっての【悪】なのです。つまり私、ヨーダは神の代理人であるとともに極悪人というか実際、正真正銘の【悪魔】でもあります。平気で嘘を吐くし、笑いながら皆さんへ【法】を執行することも出来ます。毒殺も刺殺も原子炉爆破もなんだってOKです。あ、つい口が滑っちゃったんですが、少なくても数千年も前から【法】は、私たち神の代理人の手中にあります。【法】とは、文明の維持そのものなのです。アハハハハハ‥‥。●ただし、いつの時代でも【法】を土台から覆そうとする力が存在する。それは簡単に言ってしまえば「小さな共同体のルール」から派生した【文化】なのだが、これがなかなか手強い。武力は武力によって覆すことが出来るが、【文化】は【文化】によって覆すことは出来ない。なぜなら【文化】は融合し、どんなに下火になっても【文化】の痕跡をしっかりと人々の心に残すからだ。なので歴代の神の代理人は、花の蕾を見つけしだい咲いてもすぐ散るように強力な毒を塗る。花の蕾は、かよわく何か言いたげでそれでいていつもたいがい自分の殻に閉じこもっている。文明そのものを覆してしまうほどの美しい花は、ごく稀に永く咲くこともあるが、その時は花そのものを完全に悪の力へと引き寄せる。けして自由には咲かない、咲かせてはならない。「ヘタクソ」だとか「才能がない」と腐った花たちに侮辱させるのも効果的な方法のひとつだ。すべての蕾のまわりには腐った花を咲かせておけばよい。文明に反するもの、すなわち「自然」を許さない、それが悪の力というものだ。それでも奇跡的に、なおも美しく咲いてしまったきっと明日にも散るはずの花たちの中に、‥‥ああ。でも何故なんだろうか? 私、ヨーダは、私自身が操る悪の力によって‥‥君という、「神の蕾」を隠したのだ、