赤真珠
田中修子

北の
夏の終いの翡翠の海に 金の夕映え
ありまして
黒い夜 黒い波が
どこからか押しよせてくるのです

どこからか

ひえてゆく 色とりどりの浜辺でね

 赤いカーディガン羽織ったともだちが
 へたっぴダンス

そのこは いつだって なんだって
ぶたれないよう しにものぐるいで歯を食いしばり
みんなの憧れの王様のように チェシャ猫みたいに
ミャアミャア笑っているのにね
しっぽはふくれて いるんです

くすぐったそに わらいながら

 ひとりぼっちの少年みたい
 わたしは子らをあやしながら

黒いっしょくの波音に
橙いろのらんたん灯り(まぼろし)

 このごろできたともだちが
 てんで ばらばら 好きかって
 ひとりは恋を
 ひとりはうたを

遠くの家の窓明かり

なみおと耳にのしかかり

 父さんの亡霊が涙ぐんでやってきて
 わたしは さけび

橙いろのらんたん消えて(まぼろしが)

くらい浜辺にひとりぼっち 腕の子らも きえ

 波はたぶん翡翠の色ね
 おしよせておしよせて

赤い人魚 なんですよ
 にんげんでは ありませんよ
  波間にほどけて消えていこ すべてはうたかた
   赤い真珠が 一粒 ころん
    翡翠に金に 赤真珠……


自由詩 赤真珠 Copyright 田中修子 2018-08-25 13:43:42
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