熱帯夜の夢
香椎あい

熱帯夜がはじまると
民家や道路やの光を
もいで
食べる
行儀のよい獣たちが動き出す

アスファルトの白線を遊んだ痕
そうだ彼女らは南からここへ来た
屋根が静かに揺れ
こぼした光の匂いが移っている
ここはすっかり暗いから
彼女らはいまきっと繁華街のほう

今夜は満月
彼女らの視界に月がちらつく
あれは彼女らの夢
至高の果物
彼女らは鳴き
月の暈の周波数に近づこうとする

彼女らが還る頃
それは決まって彼女らの夢が破れたとき
それを慰めるのは
私たちの軽やかな眠り


自由詩 熱帯夜の夢 Copyright 香椎あい 2018-08-23 22:12:51
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