トイレの花子さん☆
藤崎 褥

 学校の怪談といえば、やはり代表はトイレの花子さんではないだろうか。
 花子さんとは学校に伝わる女子生徒の幽霊の総称で、良くトイレに出没するのが特徴で、その起源はそれぞれの学校でかつて実際に何らかの事故などで死亡した生徒の存在であったり、時には全く架空の想像上の存在であったりするようである。
 僕の通っていた小学校にも、やはり花子さんの怪談話が伝わっていた。

 うちの学校に伝わる花子さんは体育館の屋根の上に乗ってしまったボールを取るために、体育館のすぐそばの大木に登って、屋根に移動しようした際にバランスを崩して落下し、お亡くなりになった女子生徒だった。
 …実にたくましい女子生徒である。
 体育館の屋根の上にボールを跳ね上げた挙句に、木に登ってボールを取りに行こうとする少女。日本は実に惜しい人材を無くしたものである。

 僕が小学校の頃は、ちょうどそういった怪談が少しブームになっている時期だったので、様々な情報が錯綜していた事もあり、クラス全員でトイレの花子さんに会おうというイベントを行った事がある。
 トイレの花子さんはトイレの13番目に入っており、ノックをして名前を呼びかけると返事があるという伝聞があったのである。
 そして男子生徒は女子トイレの外で有事に備え、女子生徒たちがトイレの中に入って行った…のだが、ノックする音も、花子さんを呼びかける声も聞こえない。
 どうしたのだろうと思っていると、女子生徒たちがトイレから出てきた。
 そして、こう言った。
 「うちのトイレ、6番目までしかなかった…」

 さすが小学生である。最も大切な要素を忘れていたのである。
 六つしかトイレがないのでは、花子さんを呼ぶことが出来ないではないか!
 …こうして僕らは一つ大人になった。

 ところでその時、姉も同様のブームの中にいたので、同じように花子さんと触れ合う為のおまじないをしていた。

 それがトイレにキュウリを置くという儀式である。
 これは花子さんの好物がキュウリなので、トイレにそれを置いていくと、次の日には食べられており、キュウリは跡形も無く消え去っているというものである。
 これならシャイな花子さんと間接的に触れ合う事が出来るではないか!という事である。

 さすが上級生、僕らとは一味違う、トイレの数に左右されない儀式だなぁ〜と、つくづく感心したものであるが、今になってみればどっちもやはりガキだったなぁ…。

 それで実際に次の日に学校に行って見ると、本当にキュウリがなくなっているのである!と、学校中で話題になったもので、13番目のトイレ事件で、少しすさんでいた僕達のクラスにも、子供らしい純真な心が蘇ったのである。

 ただ当時から気になっていたのだが、キュウリが大好物なのは花子さんではなく、「河童」のような気がするのだが…。

 最後にこの場を借りて、生徒達がしつこく連日に渡って設置していたトイレのキュウリを毎日片付けて下さった、学校の用務員の方に、心より御礼申し上げます。
 多発するキュウリの怪事件の犯人は僕達でした。
 子供の夢を守ってくれて有難う。

 そして、相当のスポーツマンで、キュウリが大好物という一流アスリートのような印象の我が校の花子さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。


散文(批評随筆小説等) トイレの花子さん☆ Copyright 藤崎 褥 2005-03-23 10:59:57
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