跳ねるさかな
田中修子

青灰色に垂れ込める空や 翡翠色のうねる海や 色とりどりの砂の浜を
灰色の塩漬けの流木や 鳥についばまれてからっぽになった蟹や
ボラが跳ねる 「あの魚は身がやわらかくてまずいんだよ」
きん色に太陽が落ちて水平線に溶けてゆき
真っ黒く陽が落ちれば 向こうのなだらかな山に
青色の人の家の明かりや
きらめくオレンジ色の発電所が
光り

月が出た

血のにじむ世を照らす

キーボードにぱたぱた跳ねて
風景をえがきだすわたしのこの指

近所のスーパーとこのアパートとの往復
公園への散歩
病院へいくこと
ほんのときたま旅をする
ありふれて穏やかな日日のなかで

父母の指し示す天に向かって飛ぼうとし
溶けて地上にたたきつけられた
ロウでできた羽に
また火を灯し夏の夜に置いて
風景を点と点とで浮かび上がらせようじゃないか
どこまでも どこまでも
飛びたって浮きたって
まなうら火花

海水のまとわりついたからだを真っ暗な冷たいシャワーで洗い流す
友人のしなやかな冷えた魚の肢体がすこし見える
まっ黒な夜に浮かぶ月 夏でも寒いこの浜辺にお別れをいう

頭のなかに言葉が滴り その雨音に耳を澄まして

日常の隙間に ちいさな手と洗剤にあれた大きな手と
つないでお昼寝をしながら
ああ、言葉が尾ひれとなって
どこにでも泳いでゆけた


自由詩 跳ねるさかな Copyright 田中修子 2018-07-25 10:47:49縦
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