やわらかいもの
ただのみきや

頭をいくら固くしても
心はそのまま
言葉の持つ意味は不動でも
渡す者
受け取る者
ふれる心はやわらかい
絹豆腐みたいに崩れたり
卵みたいに中身が漏れたり
隅々まで波紋を広げ
丈夫な外っ面まで液状化する始末
しっかり締めた頭のネジも
内圧で吹っ飛んで
被害者になって
告発者になって
判決を下し
断罪の剣を振りかざす
心を削って相手の人形を造り
造っては怒り壊し
また造っては罵り嘲り
誰でもないただ自分の心血を擦り減らし
四六時中憎らしい相手を心に抱えている
そして時折
自分は間違っていないのだと
堂々巡りの論法を積み上げる
首輪を引かれた犬が
いつも同じ場所の臭いを嗅ぎ臭いを付けるように
そうせずにはいられない
安らぐわけではないが
なにかが摩耗して薄れるまで
頭をいくら武装しても
心はそのまま
言葉に善も悪もないが
渡す手
受け取る手
ふれる心はやわらかい
自分のことを言われていると思う人がいたなら
――その通り
だが当てつけではない
わたしもそんな一人だから
現れ方に個人差があるだけで
人は皆そのようなものだと
少なくとも わたしは 思っている
そして それでいいと
それを知ってさえいれば
心は石にも鉄にも化けるが
所詮はやわらかい
自分のものすらままならない
とてもやわらかいものなのだと





             《やわらかいもの:2018年7月4日》









自由詩 やわらかいもの Copyright ただのみきや 2018-07-04 19:03:39
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