野性の夜に
そらの珊瑚

小さく尖った歯で
骨付き肉に喰い付くと
遠い昔がよみがえる
自分がまだ産まれてもいない
遠い時間の記憶が

タイムマシンはまだ発明されてはいないけれど
かたちのないタイムマシンはいつだって発動される
乗って行っても
未来が変わる心配などいらない

体験していない記憶というものも
たぶんあって
たとえば海を見ていると
理由の見当たらない懐かしさでいっぱいになる
現世でふるさとと呼んでいる場所とは
別の次元のふるさとが
海のむこうにあるのだろうか
波がひとつ
人がひとり
寄せては去っていく波のしくみと
生きては死んでいく人のしくみは
違っているけど
どこか似ている

あいにく今夜は停電
わたしたちは生き繋いでいた
蒸し暑い洞窟の中で
肉をはがされた
つやつやの獣の骨を
魔除けのかたちに積み上げていた


自由詩 野性の夜に Copyright そらの珊瑚 2018-07-02 09:42:11縦
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