渡り廊下
しょだまさし

この学校には 
渡り廊下が二本ある 


一同涙しながら
最後のホームルームを
終えて証書片手に
皆運動場に出て行った

一人遅れて残り
渡り廊下の窓から
向かいの生徒に
僕が呟いた言葉は
風に吹かれて届かない


思えば一年生の頃
彼女は泣きながら
金管楽器のパーツを
吹いていて
僕は野球部のキツい
室内トレーニングから
逃げ出して小雨に
濡れながら向かいの
渡り廊下の彼女を
眺めていたのだった


ライン通知が届く
「卒業おめでとうって
言ったんだ」と
嘘の返信を送り
証書を手の代わりに
振り返した


~・~・~・~・~・~・~・~


二本ある渡り廊下で
今向かい合っている


彼との出会いも
この渡り廊下で
最後の一日もまた
ここに立っている


結局三年間
一度も同じクラスには
ならなかったけれど
お互い励まし合う仲に
なれて本当によかった
夏の最後の大会で
彼の立つバッターボックスに
向かって吹いた
トランペットの音は
最高の響きだったはず


向かいからの彼の
呟きは聞こえなかったし
問い合わせたラインの
返信も絶対嘘つきだ

私は鍛えた肺活量を
全開にして叫んだ
『好きだと言えコノヤロー!』
って

直後に届いた
ラインメッセージは
たった一字
“り”

読んで微笑んだ
私の耳に向かい
の廊下から望んだ
告白が渡って届いた


自由詩 渡り廊下 Copyright しょだまさし 2018-07-01 21:49:02
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