桶のない井戸
ただのみきや

水たまりに映った樹々の緑を
雀の水浴びが千路に乱すように
残された幻を爪繰れば
言葉は石のラジオ

ハリエンジュに掛けられた巣
御し難い別個の生き物として
わたしから乖離したわたしの
錯乱した卵がひとつ落下する
言葉は陽 その陰に黙するもの

固く閉ざした瞳の奥の麦畑
飛び散る陽射し
あなたに良く似た案山子
虻の囁きが鼓膜に接吻する

考えない葦

神は全てを目的のために創造した
わたしは想像を快楽とした
嫡子を得るためではなく
快楽のために世界と姦淫し
私生児を生み続けている
あるいは自慰の度に子を孕む者

薄く脆い卵殻に包まれて
落下し続ける
ゆらゆら重心を得ないまま
自他の境を越えた深淵
中心である全体へ

肉面を剥ぐために駆け出したりしない
一本の紐として解けてしまうもののためには

憂鬱な空模様のように
読み続ける言葉
目を閉じるといい
無花果の花になって
姿もなく甘く




              《桶のない井戸:2018年6月16日》










自由詩 桶のない井戸 Copyright ただのみきや 2018-06-16 18:08:59
notebook Home