祖国について
青色銀河団

封筒のいのちが燃やされた朝
高い樹木は舌のかたちに風に揺れ
戦争に行ったままおとうさんは
還ってきませんでした

硬いあおぞらで何かが倒れます
夢の森はいまでも神聖なままですが
月だけが裏返っていました

窓に向ってノートをひらくと
祖国のなにかが問い始めます
悲しい手品師になった先生は
天文の法則に捕らわれてしまいました

しるしの言葉が
どこにもありません
ページの感触ばかりが
つのってゆきます


(遠くの野原で電話がりんりん鳴りひびく)
(弾丸の足音を埃のような戦車が踏み潰す)

せつない年月のひびきについて
耳を傾けまどろみはじめる季節なのでしょう
初恋の水脈ひく影に
蝙蝠傘をさす彼女の朝は美しいですか
背中が輝く幼い日は
もうどこにもありません
十字架ばかりが透明なのです

うたは透明な食卓とともに
さらさら流れ
傍らではだらしない蛇がよろこんでいます


星のように燃える
人間の心は精緻ですか
笑う人ほど静かに悲しみに
沈んでゆくようです

おとうさんのなかの汗がまだつらいのですが
みにくい眠りのまま
郵便の伝言を待っていることにします
倒れる劇をずっと演じていたいのです
それは葬式の蜜柑とナイフの美しさにきっと似ています

指先のオレンジを
いくども飛び散らせる
傷口のためのたたかいなのかも知れません




自由詩 祖国について Copyright 青色銀河団 2005-03-21 22:56:43
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