名も知らぬ国
田中修子

to belong to
ということばのひびきはあこがれだ
(父のキングス・イングリッシュはほんとうにうつくしい)

遠い、遠い
名も知らぬ
国を想うように
to belong toをくちずさむ

わたしはどこにもいられなかった

家族に
学校に
宗教に
思想に
友達ってなんだ 仲間ってなんだ

でも好きだ 遠いあこがれの
魚泳ぐきらめく碧い海にも
雪の白にも染まる山にも近い
カフェがある図書館がある老人も子どもも遊んでいる
名も知らぬ

わたしのほんとうの両親は
カウンセラーさんと精神科医である
本質的には金でやとっている

それからわたしの昔の多くの恋人
いまおもえば
なにももたぬ
わたしのからだでやとっていたのだろう
しゃかりきだしゃかりきだ

どこかにはあるという
無限の愛

精神病院はたしかにhuman lostであった
みんなあたまが半分以上すきとおっている白い部屋である
驚嘆であった
脱走して夜の海に身を投じようとすれば
砂浜にちびちび舐めるウィスキーは熱く胃をなぐさめて
わたしは安らいでいつだって考え直してしまう
そこはかとない くやしさ

(しかしわたしの脳は委縮しているので
もうアルコールにも属せないのです チェッチェッ)

文字の浜にうちあげられたひとびとの
よこがおを盗みみる
みなちょっぴり孤独に退屈している顔をしている

属すことはできないが
わたしはここからきたのだ そうしてどこかにゆくのだ
それでよろしい 

遠い、遠い わたしのなかに在る国の
男たちは労働のあいまカフェで珈琲をのみ庭の手入れをしている
女たちは子育てして洗濯物をはためかせ繕い物をして花を飾っている
読書は雨の日のぜいたくだ
その街角にながれる
なつかしいはやり歌をうたうように
to belong toを口ずさむ わたしのはつおんはよろしくない


自由詩 名も知らぬ国 Copyright 田中修子 2018-05-04 12:23:49縦
notebook Home 戻る