50階
ただのみきや
黒焦げのトーストがいいマーガリンでいい
バターじゃなくていい
蜂蜜は国産 養蜂屋の小さな店先のがいい
種類にはこだわらないがシナ蜜なら尚いい
雨が降る前に用事を済ませたいが
用事の方がはっきりしない
万有引力とも生への執着とも違う
マイナス50℃の鉄の空箱が埋まっている
ひとつのことばが足を引きずっていた
帰る土地のない負傷兵のように
荒れ果てた丘の窪地を崩れた建物の陰を
砂の囁きへと身を変えながら後ろめたさの気配だけ残し
なだらかな楕円の螺旋階段
手すりに凭れて真っ黒いトーストを齧る
同じ齢の春 鏡のように姉は笑う気前よく
「――もうすぐ50階 刺し違えるつもりでね
《50階:2018年4月25日》